紅一点
ゆっくり耳元に
顔を近づける。
まだ、相手は気づかない。
私は、開ききった瞳孔の
男の肩に手を置き、
声をかけた。
「…ねぇ、何してんの?」
重蔵の肩がビクッと跳ね上がると
同時に、画面の中の女優さんの
顔面が蒼白になって。
「『ぎゃああああっ!!!』」
2人が同時に絶叫するから
私までびっくりしたじゃない!
「うるさいな!重蔵!
勝手に人ん家で、映画鑑賞
してんじゃねーよ。」
壁の照明スイッチを押し
重蔵に文句を言えば。
「ばっ…!!」
私を視界にとらえたヤツの
両目が落ちそうなくらい
見開かれた。
「バカ!お前!なんつう
格好でフラフラしてやがる?!
服着てこい!服!!」
顔面どころか耳まで
真っ赤にして、
卒倒しそうになりながら
叫ぶ。
「あ。忘れてた。」
熱が冷めるまで…と、
バスタオルを巻いただけ
だった。
「お前は淳之介の前でも
そんな格好でフラフラ
してんのか?!
…あの…あれだ。
服着たら戻って来いよ!!」
閉めた襖の向こうから
小舅が、まだブツブツ
言っている。
さすがの私も、こんな失態は
淳之介の前ではしない。
さっさとキャバドレスを着て
台所へお茶を飲みに向かった。
「重蔵も、お茶飲む?」
冷蔵庫から取りだした
ポットから、グラスに
お茶を注ぐ。
「おう。飲む。…って、
お前、ホント、どんな
人生送ってきた訳?!
ケツみたいな乳の谷間
見せてんな!!
隙だらけじゃねーか。」