紅一点
 

そういいながら、奴は、
キャバドレスの上に
羽織った、ジャージの
ファスナーを限界まで
引き上げた。

…存外、初心なオトコだ。

「じゃあ、私はこれで。」

「いや!待て!!」

やや眠気を感じて
部屋に戻ろうとした私の腕を
重蔵がガシッと掴んだ。

…なんだよ?

すっごくアワアワしてるけど。

「お前、映画見んの付き合えよ。
…その…淳之介も、いないし。」

「えー、いいよ。それ何回も見たし。
今見てるの、マンホールから
オンナ生えてくるヤツでしょ?
もう、見飽きちゃった。」

あれ?マンホール
だったっけ?

…ま、いいか。

「え?そんな蓋ついてた?
まぁいいや。とにかく付き合え。」

…しつこい…

「…何よ?…もしかして
重蔵、ホラー映画、怖いの?」

いっつも邪険にするオトコが
なんだかオカシイ…

「…ん?いいじゃん。
見ようぜ。」

そんな子犬の皮を
被ったところで、
普段の魔王な己が誤魔化せる訳
なかろうよ?

「まぁ、たまにはいいか。
電気消すよ。」

「ちょっ!!
座るまで待てって!」

さっさと見ようと照明を
再び消すと、液晶画面から
青白い光が浮き上がった。


 
 
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