紅一点
「?今は…」
何で西暦…なんて
知ってるの?
突然の問いかけに、今年の
西暦を答えれば、太夫は
ちょっと驚いた表情をした。
「もう30年も経つのね。」
そう言って。
「…太夫?」
考え得る事は、そんなにない。
「ハオ、こっち。」
太夫が、私の手を引いて
大屋根に誘う。
事もなげに、格子戸を外し
長い着物の裾を捌き
屋根瓦を踏みしめる。
太夫は見かけによらず
お転婆で、運動神経がいい。
「あそこは、盗聴器も
あったりして危ないから。
私もね、ハオと
同じ世界から連れて
こられたのよ。
30年前にね。」
太夫と並び、屋根の上に
寝そべり、青空を見る。
…話の方向性と、直感で
なんとなく、そんな気は
していた。
「え…じゃあ、太夫って…
実はおいくつなの?!」
…二十代半ばにしか
どうやっても見えないけど。
「…50歳アル…」
気まずいのか、急に
古いコントの某国人の様な
イントネーションで言う。
…それって…
夜逃げした、ウチの両親より
年上なんですけど!!
思わず、太夫をガン見する。
「ここって、変な世界よ。
まるで、自分の思いのままで
時間が止まってるみたい。
だから、私だけで無く
向こうから来た人間は
こっちで生まれたヒトみたく
容姿と年齢が一致しない
ことが多いのよ。」
“これも未練”なのかねぇ…
太夫がポツリと溢した。
「太夫は…どうして
ここに来たの?」
思わず尋ねてしまったけど。
…聞いても
いいものだろうか?