紅一点
 

そんな昔から、
ムコウと、つながる通路が
あっただなんて…

「…売られた。
でも、それでもよかった。
もう、どうでも良かった。

当時の私は、向こうに居る
親兄弟の事すら
考えられなかったのよ。」

太夫はそう言って
寂しそうに微笑んだ。

当時の太夫は、OLさんで
会社の同僚と
恋人関係だったそうだ。

でも、その恋人は、
ある日突然、退職して
音信不通となった。

のちに、彼は、冬山で
事故死していたとわかった。
雪が溶け遺骨の一部が見つかり、
初めて他の社員と一緒に事実を
聞かされたそうだ。
狼狽える彼女を気遣える者は
そこにはいなかったのだろう。

毎日苦しくて
発狂しそうだったそんな時に、
歌舞伎町で
風俗斡旋ブローカーに
カモにされたらしい。

それでも、全てが
どうでも良くなっていた
太夫は、なされるがまま、
最後、ここに流れ着いたという。


 
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