紅一点
 

“ようこそ、おこしやす。”
賑やかな客引きや出迎えを
避けながら、表通りから
店の裏手の勝手口にまわる。

慌ただしく、女中や遊女が
往来する店の裏側
俺に構うような者はいない。

しばらく、土間で、
誰かが落ち着くかと
待っていたけど、予想に反し、
落ち着きをみせる
様子がない。

…ったく、ハオは
ここで何をしてる?

「ちょっと池田屋?
ハオは居る?」

いつもなら、帳簿と木札を数え
ウハウハしている女傑さえ
定位置に居らず訝しむ。

…仕方がない…

ブーツを脱いで、
勝手しりたる遊郭の中を進み、
とある倉庫から短刀をとって
ベルトに差し、人目を避けつつ、
階段を登る。

目指すは太夫の部屋。
なぜだかそこに、
ハオがいる気がする。

そして、そこに近づくほど、
遊郭とは思えない程
賑やかになってきた。

ちょっと、待て。

…しっぽり感が
まるでないのだけど…?

戸惑いを感じつつ進めば、
女達の腹を抱えて笑う声を
BGMに、酒と料理が
ひっきりなしに、
目的の部屋へ運ばれて行く。

「…一体、何してるわけ? 」

やたら賑やかなその部屋の
襖に手をかければ
慌てた女中が止めに来る。

「ダメですっ!旦那?!
そこは開けてはなりません!
お嬢様に難く止められています。」

…いや、待ってよ。

襖の奥から、バッチリ
池田屋とハオと太夫の声が
するじゃない!?

「アンタ、ダメだって言うけど
がっつり、ハオと池田屋の声が
しているじゃないの?」

太夫は、とにかくとして
あの2人が、接客してるって
いうの?

座敷に上がらなきゃ
いけない状況だっていうの?


 
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