紅一点
 
 
「おお、そうじゃったわ。
こっちの方は値踏みといくか。」

そう男は言って、ズカズカと
藤姫の方に足を進め、
ドッカリとその横に
腰を据えた。

そうして、お猪口を手に取り
つげとばかりに、藤姫の方へ
差し出す。

「よろしくのう。おまえさん
なんと申す?」

嫌な表情をみせず、藤姫は
酒器を持ち上げ、猪口に注ぐ。

「藤姫と申します。本日は、
ようこそお越しくださいました。」

「はぁ…美しいのお。
ちょっとここら辺では見かけんな。
おまえさん、どこの仲介に
連れられてきた?どうせ女将に
聞いても、教えてくれん。
ショバの問題があるとかでな。」

“ぶっ殺すぞ。カスが。
池田屋(ネエさん)が言わねえことを
藤姫から聞き出そうと
すんじゃねぇ。”
…と、隣でハオが毒付く。

全く殺気を消すことのない
ハオににも、その殺気を
気取ることすらない
ターゲットたちにも
内心驚愕した。

「あら。」

藤姫は、おもむろに
扇子を広げて口元を隠し
男の耳に唇を寄せる。

「そうねぇ…、アンタが
アレに勝ってこの金子(きんす)
5倍にしてくれたら
教えてやってもいいわね。」

なんという悪い眼差し!!
屏風の後ろに隠れ、
藤姫の悪女っぷりに
息をのんだ。

「面白い。お座敷遊びか。
ワシは、アレ得意じゃぞ?」

男は自信に満ちた表情で
芸妓をよびよせた。

 
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