紅一点
 
「そういうハオは、さ?
帰る場所…あるのか?」

俺はここぞとばかりに
聞きたかった質問をする。

「ワタシか?」

何でカタコトなんだよ(笑)

「私もココにいるかな。
親も生きてるのか死んでるか
わかんないし。そもそも、
もう関わりたくもないし。

歪な世界だけど、ここの方が
居場所もあるし、居心地がいい。
…って、見て。アレ。」

にんまり笑ったハオが
ご満悦で襖の隙間を指でさした。

「おお!!」

思わず声が漏れたが、
興奮状態の宴席で反応するものは
誰も居なかった。

「あのオッサン、見事に
全裸じゃねえか。」

もはや産まれたての姿で
堂々と佇んでいるその精神力に
おかしな尊敬の念がうまれた。

「おい!太夫、もうひと勝負!
こんなイカサマ擬き
ありえんだろう!?
お主が一枚も脱ぐことなく、
ワシだけ負け続けるなど!!」

余りにも恥じらいの無い
オッサンの佇まいに、
ハオの目を両手でふさいだ。

「あら嫌だ。旦那が
弱いだけでなくて?
そうねぇ。この遊郭街(世界)への
通行手形を賭けるなら、
もうヒト勝負やらないことも
無くってよ?」

藤姫がゆらゆらと扇を
揺らしながら太夫の隣に並んだ。

「ほう。食い扶持をかけるってのかい?
そりゃあいい。じゃあ、
オマエさんは、年季明けの金全て
かけるってのはどうだい?」

「年季?どうしようかしら。
もし負けたら、2倍の期間
お勤めする事になるのね。」

そう一芝居を打ちながら藤姫は
扇の陰で蔑んだ笑を浮かべる。

そいつは、瞬時に
あらゆる計算をして
答えを示す能力の持ち主だぞ。

おまえに勝ち目なんぞ
あると思えんがね。




 
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