強引な彼にすっかり振り回されています


「それじゃあ、ここで失礼します。」


レジデンスのエレベーター前で挨拶をする。

お見送りをするため「気をつけ」の姿勢でエレベーターに乗り込む西王寺さんを眺めていた。

レジデンスのエントランスホール内は適度な空調が効いていて心地良い。

西王寺さんがこちらを振り返った。


「また連絡する。」


言いながら、ふいに何かを私に放ってきたので、慌てて全身を使って受け止める。

見ればペットボトルのスポーツドリンクだった。


「えっ?あっ! ありがとうございますっ!」


目線を西王寺さんに戻して言い終わった時にはすでにエレベーターのドアが閉まっていた。


(お礼、ちゃんと聞こえてたかな。)


紳士的なコンシェルジュさんの視線を痛いほどに感じながら、エントランスホールを後にした。


「ふぅ……美味し……。」


もらったドリンクが、やけに甘く感じる。


結局今日も打ち合わせと称しておきながら、西王寺さんのペースで私のプロフィールや趣味、

休日の過ごし方など散々質問されて1時間が過ぎてしまい、私の聞きたいことが何ひとつ聞けていない有様だ。


「何やってるんだ、私。」


いつも自分のペースで話を進めること立場ばかりだっただけに、

自分のことを聞かれる心地良さのようなものに甘んじてしまった。


(次こそは、しっかりしなきゃ。)


残りのドリンクを心のざわめきと共に一気に飲み干した。


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