強引な彼にすっかり振り回されています


何故こんなことになってしまったのか。


日本庭園にいたはずの私は今、オフィスビルの高層フロア行きエレベーターに乗っている。


西王寺さんと2人きりで。


エレベーターに乗るまでの行程も、私にとってはパニックでしかなかった。


「せっかくのお誘いなんですが、私、車通勤で、今日は作業着で家から来てしまったので……。」


これは庭園で夕食に誘われた私の答えだった。

西王寺さんは、ちょっと驚いたように一瞬目を見開いたものの、すぐ、ふっと柔らかく微笑んで、


「ちょっと待ってて。」


言うや否やスマホを取り出してどこかに電話をかけだした。


「うん、ムリ言って悪いね。いま屋上だから、よろしく。」


そう言って、通話終了のタップをしながら私を振り返った。


「OK、問題ない。行こう。」

「な……何が問題ないんですか?」


話の掴めていない私の手を、躊躇なく絡め取りモール内へと歩き出す西王寺さんに引きずられるような格好になった私には何もなす術がなかった。

閉店後のモール内で1箇所だけ煌々とした灯りに照らされているショップに連れて行かれる。


「じゃあ、よろしく。」


ふいに繋いだ手が離されると、ショップの店長だと紹介された女性に託された。


「お任せください。」


西王寺さんに品良く微笑んだ女性が私を試着室へと促している。


「あのっ!西王寺さんっ?」


楽しそうな顔をした西王寺さんは何も答えてくれず、私に向かって手を振っているので、店長さんについて行くしかなかった。

私の知っている試着室よりも随分と広い空間に通されてから、

パンツ・スカート・ワンピース3択からの選択権を与えられた以外は有無を言わさずの着替えとなり、

我に返った時には、着てきた作業服が詰められたハイブランドロゴの入った紙袋を持ち、

洗練された格好の私という、ちぐはぐなものが出来上がっていた。


「うん、いいね。やっぱりパンツスタイル選んだか。」


ちょっぴり苦笑した西王寺さんが、店長さんに何やら手渡している。


「ありがとう、またよろしく。」

「こちらこそ、お役に立てて光栄です。」


そのやり取りを見て、支払いをされたのだと気づく。


「西王寺さんっ、あの、こんな高価なものっ!」


西王寺さんが狼狽える私の手から紙袋を取り上げると、


「ラストオーダーまで時間がないから急ごう。」


そう言って足早に背を向けられてしまったので、私は店長さんに深々とお辞儀をしてから慌てて後ろ姿を追いかけた。


そうして今、エレベーターである。


「紗也ちゃん、そんなに怖い顔しないでよ。せっかくの可愛い顔がもったいない。」

「緊張しているだけですっ。」


クスクスと漏れる笑い声が、さらに私の緊張を煽る。

だって「お腹空かない?」なんて気軽なお誘いからこんなことになるなんて私の想像の範疇を簡単に超えているのだから。


ポン……っと控えめな到着の合図がしてドアが開いたのは54階のレストラン。


慣れた様子で店員と会話している西王寺さんをやや遠目に眺めていると窓際の席に通された。


(うっわぁ……!)


見渡す限りキラキラの夜景が広がるレストランは、その光を邪魔しない程度の照明で高級感に溢れた内装になっている。

椅子を引かれ、ぎこちなく腰を下ろすと、無意識のうちに背筋が伸びてしまう。


「特に苦手なものはない?アルコールも平気?」

「は……はいっ……。」


西王寺さんはスマートな仕草で注文を済ませると、ふぅっとひと息つきながらネクタイを緩めた。

落ち着いた照明の中、動作の一つ一つに形を変える陰影が西王寺さんの醸し出す色気を増幅させるので、ついつい見惚れてしまう。


「そんなに熱心な目で見つめられるとおれまで緊張しちゃうな?」


全く緊張の素振りがない西王寺さんが形の良い眉を上げて私をリラックスさせようと声をかけてくれる。


まもなく運ばれてきたシャンパンも、私が知っているものよりキラキラと煌めいて見えた。


「じゃあ……この前の依頼の成功に。」

「こちらこそ、お世話になりました……」


互いにグラスを持ち上げ、目で乾杯の合図を送り合う。


緊張している喉にスッと美味しいシャンパンが流れ込んで、やっと少し落ち着いた気がする。


「……ちょっと強引だったかな?」

「えっ?」

「紗也ちゃんの都合とか何も考えずに連れてきちゃって、悪かったね。」

「いえ……私のほうこそ、こんな素敵な服を一式……それに素敵なお店まで連れてきていただいちゃって、どうお返ししたら良いのか……。

それに、私の都合云々に関しては、いつもの事ですよ?」

非日常の出来事に気持ちが浮ついているのか、つい意地悪で返してしまった。


「ははっ、違いない。散々振り回しておいて、今さらか。それにお返しなんて考えなくて良いよ。
これは、この間の依頼へのお礼と……」

西王寺さんが苦笑してから、おもむろに私に手を伸ばす。

「今日の紗也ちゃんの頑張りに。」

さっき屋上で顔の土を拭ったときのように、私の頬を優しくつまんだ。

むにむにと私の頬の感触を楽しむ様にしてから、その手がシャンパングラスに戻る。

つままれた頬が熱を帯びている気がしたのも束の間。

「……というのは理由のひとつで、1人だと旨いものも旨いという実感が薄いんだよね。」

そっと苦笑いする西王寺さんを見て、誘われたのはそういうことかと納得する。

「私なんかで良ければいつでも……って、西王寺さんにはお誘いできる女性はよりどりみどりじゃ?」

「さぁ?どうかな……」


何故か答えを濁される。一瞬寂しそうな表情に見えたのは気のせいだろうか。

次の言葉を探していると、お料理が運ばれてきて会話が中断する。


「食べようか。」

「はい……」


初めて聞く横文字の料理名も多かったけど、どれもとても美味しくて、

私の仕事のことやプライベートのことなど会話が弾み、すっかり気を許してしまっていた私は、

勧められるがままに西王寺さんと同じペースでワインも空けてしまったけれど、心地良い緊張感が何とか理性を繋ぎ止めていた。

デザートとコーヒーを堪能していた時。
西王寺さんが、ふと真面目な表情に変わった。


「さっきの話だけど、紗也ちゃんには俺って夕飯に誘う女性がよりどりみどりに見えてる?」

「見えてるというか……、だって西王寺さんイケメンだし、副社長だし……。」


もしも西王寺さんがペットのわんちゃんだったら、絶対いま耳が垂れ下がってしまっているだろうなと想像できるほど、しゅんっとした表情をしたので、慌てて取り繕う。


「あっ、でもまだ西王寺さんのことを良く知らないだけですからっ。失礼なこと言ってたらごめんなさい……。」


そっと西王寺さんの反応をうかがうと、今までの表情とは全く違う、欲望を宿した瞳にぶつかり、ゾクリとした。


「じゃあ、もっと俺のこと知ってみる?」


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