強引な彼にすっかり振り回されています
その後のことは記憶が断片的だ。
西王寺さんは私の手を取って立ち上がると、店員さんに何やら耳打ちしてエレベーターに乗り込み、
気づいた時にはふかふか絨毯の廊下を手を引かれながら歩いていた。
行き止まりまで辿り着くと、西王寺さんは手慣れた様子でカードキーをかざし、
カチッと音がして、ドアが開かれた様はスローモーションのようだった。
高級レジデンスを思わせる広々とした空間の真ん中には立派なソファーが置かれている。
ソファーのそばで繋がれていた手を離した西王寺さんが向かった先にはミニキッチンが備わっていて、
「何か飲む?」
冷蔵庫を開けながら声をかけられたところで我に返る。どうやら私はだいぶ緊張しているらしい。
「あの……お水を。」
「ん。」
西王寺さんは言葉少なに返事をして、ペットボトルのミネラルウォーターを2本取り出した。
「座ったら?」
所在なく立っていた私とソファーを交互に見ながらペットボトルが渡されるけれど、
思うように身体が動かせず、受け取るのが精一杯だった。
「この部屋は急なゲストが泊まれるように確保してるんだけど、結局自分で使うことの方が多いんだ。」
ペットボトルを開けて水を飲む仕草すら様になっていて、上下に動く喉を無意識のうちに見つめていた。
「家には仕事を持ち帰らない主義だから、どうしてもって時に使ってる。」
私が何も出来ない状態なので、西王寺さんが言い訳のように独りで喋るはめになってしまった。
「す……素敵なお部屋ですね。」
やっと口にできたのは、そんな一言だった。
少しでも落ち着きたくて、私もペットボトルの水をゴクリと飲み込んだ。
……はずだった。
「ゴホッ、ゴホッ!」
緊張で飲み方を間違えたのか、咳き込んでしまう。
「やだ……ごめんなさ…っ…コホッ!」
「大丈夫か?」
目の前に来た西王寺さんが私の背中をトントンと優しく叩いてくれる。
そのまま抱きしめられるような形になり、だんだんと背中の手が刻むリズムがゆっくりになるにつれ、私の緊張もだんだんと解れていった。
「ありがとうございます。もう、大丈夫です。」
見上げた西王寺さんと目が合う。
その目が熱に浮かされていて、本能的に何を求めているのかを察知する。
私もきっと同じ目をしていたのだろう。
そのまま西王寺さんの顔がゆっくり近づいてきて。
柔らかなキスが送られた。