強引な彼にすっかり振り回されています
完成したブーケはマナちゃんにお願いして、私は日本庭園に逃げてきてしまった。
雲一つない気持ちの良い空は、私の曇った心を見透かしているようだ。
木々の1本1本へ丁寧に水をあげていると、だんだん心が落ち着いてくるのがわかる。
「おねーさーんっ!」
ふいに子どもの声がして振り向くと、私に向かって手招きしている男の子と母親の姿。
「どうしたのかな?」
「ぼくのボールが……」
男の子が指差す方を見れば、低木の並ぶエリアの奥のほうに光るボールがあった。
「ウチの子がはしゃいでしまって申し訳ありませんっ。」
「ごめんなさい……。」
シュンっと気落ちしている男の子は今にも泣き出しそうだ。
日本庭園とはいえ、ショッピングモールの屋上。
こういったことは割と頻繁に起きる。
「取ってくるから、ちょっと待っててね。」
あやすように男の子の頭を撫でて、ボールに向かう。
水を撒いたばかりで所々に水溜りや、土の柔らかくなっているところを慎重に進む。
「何でこんなところに……。」
ちょうど木の幹と幹の間にボールがすっぽりと収まっていて、立ったままの姿勢では取り出すのが難しそうだ。
(仕方がないか……。)
ちょうどぬかるんでいる場所に膝をついて、四つん這いの形で腕を伸ばすと、幸い、ボールはすぐに取り出せた。
「ちょっと汚れちゃったね。」
男の子の所に戻り、作業着の袖で土を拭ってあげる。
「ありがとう、おねーさんっ!!」
嬉しそうに満面の笑みを返してくれた男の子に心が洗われる。
何度も何度も謝る母親をなだめ、男の子と手を振り合って別れた。
「ふぅ……。」
額の汗を袖で拭ったところで、ボールの土を拭ったばかりだったことを思い出して、顔を洗おうと東屋に向かった。
東屋の隣には立派な茶室が建てられていて、今日は利用者がいるのか、賑やかな声が聞こえてくる。
「あら、ヤダ。」
立水栓の蛇口をひねったところで、冷ややかな声が聞こえて、思わず見上げてしまう。
茶室の外廊下には見覚えのあるブーケを持った綺麗な女性と、エスコートしている西王寺さんがいた。
「ヒルズにもこんな方いらっしゃるのね。」
クス……と笑った女性の視線が痛いほど刺さる。
「……中に入りましょう。」
西王寺さんが女性の背に手を当てて促すと、女性は勝ち誇ったような微笑を浮かべて、その手に従った。
茶室の戸が閉められると、出しっぱなしになっていた水の音だけが私を包む。
「ーーっ!」
バシャバシャと大きな音を立てて顔を洗った。
私はこの仕事に誇りを持ってやっているし、
今までも似たような経験は良くあったことだ。
いつもだったら何も気にならないのに、
でも今日は、西王寺さんの目の前で……。
涙が止まるまで、私は顔を洗い続けるしかなかった。