婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
 車中でも莉子はあれこれと喋っていたが、宗介は聞き流していた。
 実家へと向かう途中、旬から電話が入った。車を停めてすぐに折り返すと、仕事の話で、至急確認したいことがあるとのことだった。

「悪いけど、ちょっと会社に寄るな」
「いいわよ。宗介の職場も見ておきたいし」
「……酔っ払いはセキュリティ上、立ち入り禁止だ」

 明確なルールはないだろうが、酒癖の悪い彼女を社内に入れるなんてもってのほかだ。なにを口走るか、わかったもんじゃない。

「じゃ、街をぶらついとくわ。六本木なんて久しぶりだし」
「ふらふらせず、カフェにでもいろ。酒を出す店はダメだからな」
「も〜うるさいわねぇ」

 莉子が気がかりなこともあって、宗介は旬に頼まれた案件だけを早急に終わらせ、すぐに会社を出た。

 外に出て莉子のいる店に向かって歩き出した。歩道橋で大通りの反対側へと渡る。
 こちら側の通りは飲食店が立ち並んでおり、平日の夜でもかなり賑やかだ。スーツ姿のビジネスマン、学生の集団、観光客らしい外国人……どれだけたくさんの人がいても、宗介の目は彼女だけは見逃さない。

 周囲から浮かび上がるように、紅の姿がはっきりと見えた。
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