婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
 きょとんと、不思議そうな顔をしているのは麻子だ。

「なによ、それ。私達は口出しなんて……ねぇ、あなた」

 妻のその言葉に、亮司は気まずそうに視線を彷徨わせた。

「お父さんでしたか……」

 宗介は小さく息を吐く。予想が外れた。暇を持て余し余計な口出しをしているのは母親のほうかと思っていたのだが……。

「いや……紅ちゃんがダメってことはないんだ。二ノ宮さんには世話になったしな。ただ……宮松の名を失くしたあの子が桂木家に嫁いできても、かえって苦労をかけるんじゃないかと……」
「おじ様の言うとおりよ。釣り合わない相手と結婚して、不幸になるのは紅ちゃんなのよ」

 宗介に睨まれ小さくなっている亮司に、莉子が加勢する。

「紅にふりかかる苦労は、すべて俺が背負うつもりだから心配無用です」
「宗介……」
「そもそも、桂木家が紅に余計な苦労をかけるつもりなら、俺が桂木の名を捨てても構わないしね」

 元々、ひとり息子のくせに法曹界に進まなかった裏切り者だ。両親が莉子を気に入っているのなら、彼女と未来の彼女の夫に、桂木の名を継いでもらっても構わない。

 紅がごく普通のサラリーマンと結婚したいと言うのならば、会社は旬にまかせて宗介は安定した大手企業に転職したっていいと思っているくらいなのだから。

 紅が手に入るなら、それ以外はすべて捨てても構わない。彼女のなにが、こんなにも自分を惹きつけるのだろうか。
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