婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
 その理由は、宗介自身もよくわかっていない。しいて言うならば、彼女の笑顔以上に宗介を幸せな気持ちにしてくれものなどない。理由は、それで十分だ。

 紅が隣で笑っていてくれること。宗介の人生に必要なものは、それだけなのだ。


「ちょっと待ってよ!」

 親子絶縁の危機に、ストップをかけたのは麻子だった。

「亮司さんも莉子ちゃんも、心配性すぎない? 紅ちゃんが苦労するなんて誰が決めたのよ」

 麻子はゆっくりと全員の顔を見回して、自信満々に笑ってみせた。

「いい? よく考えてごらんなさいよ。なーんにもできない、この私でも務まってるんだから、桂木家の嫁なんてぜーんぜん、大したことないのよ」

 説得力のありすぎる麻子の意見に、宗介は思わず声をあげて笑った。

「いや。お母さんは、良き妻良き母だと思うよ。ね、お父さん?」
「ん? あぁ、もちろん。麻子さん以上の妻はいない」

 このふたりはお見合い結婚だが、亮司のほうが麻子に一目惚れで、今でも彼女には頭があがらないのだ。
 そんな父だから、宗介の気持ちもきっとわかってくれるだろう。

「早く紅と一緒に挨拶に来れるよう、頑張るよ」

 そう言い置いて、宗介は実家を後にした。両親に話をしたことで、改めて自分の気持ちを確かめることができた。他の男なんて関係ない。大切なのは自分と紅の気持ちだけだ。
 今すぐにでも、紅に会いたくなった。

 

 

 
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