婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「もし、〆めが欲しければ、お茶漬けもできるよ。なめろうの残りに海苔とわさびで、すごく美味しくなるの」
「さっき炒飯食べたけど……そう言われると、食べたくなってきたな」
「味噌と大葉で焼きおにぎりもいいね」

 料理のことになると、紅は饒舌だ。
宗介は紅のグラスにもビールを注ぎ、乾杯することにした。

「こんな時間にいきなりお邪魔して、ごめんね」
「ううん。でも……いくら宗くんがホテル苦手とは言っても、うちよりはマシだったよね。なんか先走っちゃって、恥ずかしい」

 紅は照れたようにうつむいた。

「いや、本当にありがたいし助かるよ。ホテルよりずっと居心地がいい」

 その言葉に嘘はなかった。この部屋も、料理も、なにより隣には紅がいる。どんな高級ホテルより宗介にとっては、幸せな環境だ。

「でも、マスコミに追いかけられるなんて大変だったね」
「追いかけられるなんて大袈裟なもんじゃないけどね」

 宗介は苦笑する。向こうからすれば、呼ばれたから来ただけだと言いたいところだろう。

「新しい部屋はすぐに見つかりそう?」

 紅が心配そうに顔を覗きこんでくる。
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