婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「うーん。次のところは、セキュリティとか色々考えないといけないしなぁ」

 嘘だった。本気で探す気になれば、別に明日にだって新居を契約できるだろう。けれど、宗介には急ぐ理由はない。むしろ紅が許してくれるならば、できるだけこの部屋にとどまっていたい。

「狭いしなにかと不便だと思うけど、宗くんさえ良ければいつまで居てくれてもいいからね」

 お人好しな紅は宗介の望む答えをくれた。彼女の善意につけこむようでやや気が咎める気もするが……宗介はチャンスだと思った。彼女を手に入れるための第一歩だ。
 それに、約束通りに結婚することになっていれば、今頃はふたりで暮らす新居を探していたはずなのだ。寂しい単身用の部屋を探すはめになっているのは、紅のせいでもある。
 このくらいの狡さは許して欲しい、そう自分に都合のいいことを考えた。

「ありがとう、紅」

 様々な思惑のこもった笑顔を彼女に向けた。

「お布団はリビングに敷く感じで大丈夫? お風呂は先に使っていいからね」
「風呂は紅が先でいいよ」
「えっ……でも……」
「なんかこういうやり取り、新婚っぽくていいね」
「えぇ!?」

 紅が過剰に反応するのが、宗介にはかわいくてたまらない。
 
「もうっ。そういう冗談は……」

 宗介は正面から、真面目な顔で紅を見つめた。

「冗談じゃないよ。言ったろ、俺は紅と結婚したいって。だから、こうやって一緒に過ごせるのはすごく嬉しい」
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