婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
 しばらくぼんやりとしていたら、さきほどのイケメン店員さんに「飲み物のおかわりはどうか」と声をかけられた。
 外の様子をうかがってみれば、いつの間にか入店待ちの列ができていた。暗に退店を促されているのだろう。紅は慌てて店を出る。

 ランチの後は玲子の買い物に付き合う約束だったが、ぽっかりと予定が空いてしまった。

(帰って、料理でもしようかな……)

 紅にとって、料理は趣味でもありストレス発散の方法でもあった。無心で食材に向き合っていると、心がすぅっとおだやかになっていくのだ。宗介の分も含めてふたり分なら作り甲斐もある。

 紅は駅のほうへと足を向けた、と、そのタイミングでスマホから着信音が聞こえてきた。

『もしもし』

 歩きながらだったので、相手を確認せずに出てしまった。一瞬、玲子だったらどうしようかと考えたが杞憂だった。

『宗くん? どうかした?』
『仕事が早く終わりそうだから、紅を迎えに行こうかと思って。久しぶりに玲子ちゃんにも挨拶したいし』
『あっ……えーと、それが』

 喧嘩をしたことを告げると、宗介はすぐさま迎えに来てくれた。紅を助手席に乗せると、宗介は車を走らせた。

「ごめんね。早く終わりそうってことは、お仕事まだ終わってなかったんだよね」
「急ぎの案件じゃないから問題ないよ。うちの会社も今日は一応休日だしね」
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