婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「つかまってて」

 宗介が紅を横抱きにして、リビングのソファまで運ぶ。紅を座らせると、彼はその前にひざまずいた。

「ざっくり切れてるな。痛いだろ」
「……うん、ちょっと」

 見れば、右足の親指から鮮血が滲んでいた。宗介は紅の脚を持ち上げると、傷口に唇を近づけた。

「やっ、宗くん。待って……」

 ちゅっと音をたてて強く吸われると、つま先から全身へと熱が伝わっていく。 ますます頭がクラクラして意識が遠のいていきそうだった。

「そんなことされたら、もっとのぼせちゃう」

 宗介は唇の端についた紅の血をペロリとなめとった。その仕草がやけに扇情的に見えて、紅は思わず視線をそらした。
 宗介のキスは足先から少しずつ上へと移っていく。太ももの内側に唇が触れた瞬間、紅は耐えきれず声をあげた。

「あっ。ほんとに……もうダメ」

 宗介は紅を見上げて、ふっと目を細めた。伸びてきた手が紅の頬を優しく撫でる。

「……そういう顔を見せられると、自惚れそうになるな。俺を好きなんじゃないかって」
「えっと、その……」

 なんて答えたらいいか、わからなかった。

(宗くんを好き……なんだろうか。あの写真がショックだったのは、好きだから?)
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