転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく
 彼は、アイリーシャを巻き込んだことを、心底後悔しているようだった。眉が下がって、情けない表情になっている。

「ちょっと護衛をまいたら、面白いかなって思っただけなんだ……」

 あー、と心の中で唸る。
たぶん、彼からしたらちょっとした冒険心。人が多数いる広場で多少離れたところで、問題はないと思っていた。
母とはぐれたアイリーシャも、すぐに合流できるだろうと思っていたし、気持ちはわからなくもない。
まあ、普通の五歳児なら塀の上によじ登って母を待つのではなく、あの場でわぁわぁ大泣きしていただろうけど。

(……それにしても、この子、どういう理由で誘拐されたのかしら)

アイリーシャはちらりと男の子の様子をうかがった。
清潔感のある黒い髪。身に着けている茶の上着もズボンも上質のものだ。白いシャツの襟のところにラベンダー色の刺繍が施させている。
 アイリーシャ同様、貴族の出身、もしくは資産家の家の息子。身代金目的の誘拐だろうか。

「……ラベンダーの香りがする。そうだ、さっきポプリを買ったんだった」

 アイリーシャを落ち着けようとしたのか、不意に男の子が話題を変える。
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