転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく
 男の子のポケットには、ラベンダーの詰められた小袋が入っていた。赤い袋は、アイリーシャの手にすっぽりと入る程度の大きさだ。

「リーシャも買ったけど、お母様に渡しちゃった」
「そうか。リーシャは、どの花が好き? 僕は、ひまわりかな」
「スイートピー……かな、ピンクが一番好き」
「スイートピーもいいね。それから?」
「うーん、薔薇も好き。お母様がお風呂に入れてくれるの」
「薔薇はいい香りがするね」
「でも、ジャムはおいしくないの。知ってた?」

 母は、薔薇のジャムが好きで公爵邸ではしばしば茶の時間に出される。けれど、アイリーシャはジャムにした時、口内に広がる香りが苦手だった。薔薇はジャムにして食べるより、美しい姿を愛でる方がいい。
 そんな話をしているうちに、男の子との距離が近くなってきた。

「本当に、ごめんね……君だけでも逃がしてあげられたらいいんだけど」

 どこまでも、この男の子は紳士なようだ。自分だって、どうなるかわからないというのに。アイリーシャを懸命に力づけようとしている。

「ねえ、お兄さん。リーシャ、隠れんぼ得意よ? リーシャが隠れたら、誰も見つけられないの」
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