転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく
(……人波に紛れ込むっていうのもありかな)

 男の子の方を振り返る。

「……そのうち、きっと逃げるチャンスがあるわよ」

 部屋の扉が開かれたら、逃げるチャンスだ。アイリーシャは、彼の側によって、ぎゅっと手を掴んだ。

(……あ、やっぱり怖いんだ)

 彼の手は、汗でじんわりとしている。年下の子の前で、怖がっている様子を見せてはいけないと懸命なのだろう。

(なんとかして、ここから逃げなくちゃ)

 絶対に、ここから逃げ出すのだ。男の子も一緒に。

「おい、飯にするぞ」

 殺すつもりはないのだろうと思っていたアイリーシャの判断は間違っていなかった。夕方、外が薄暗くなってきたところで、食事が運ばれてくる。

(――今だ!)

「お兄さん、扉が空いたら逃げるよ。音は立てない。話さない。オーケー?」

 静かに問うと、相手はこくりとうなずいた。もう、音をたてないようにしているみたいだ。
そろそろと扉のすぐ脇に移動する。

「おーい、飯」

 男のうちの一人が、盆の上に料理を載せて持ってきた。

「おい、どこに隠れて――」

 男の子と繋いだ手にぐっと力をこめる。
スキル発動!
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