耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「マスターと言えばね、」

そう言った美寧の眉間に皺が寄る。
不機嫌になるということがまずない彼女の、そんな表情は珍しい。とはいえ、“怒っている”というよりは“むくれている”という方が正しいだろう。

「また言われちゃったの……『高校生かと思った』って………」

頬を膨らませて完全に“むくれ顔”になった彼女に、怜は以前自分の友人の高柳が彼女のことを『高校生くらい』だと勘違いしていた時のことを思い出した。その時も美寧はそんな顔で不満そうにしていた。

「神谷さん、私のこと昨日までずっと高校生だと思ってたって………」

ぷぅっと頬を膨らませた美寧。少しの間そうしていたけれど、「ふぅ~」と風船から空気を抜くようなため息をついた。

昨日は土曜日。美寧はいつも通り午前中からアルバイトに入っていた。お客の波が引いた昼過ぎ。昼休憩に入った美寧が賄いのエビピラフを食べていると、サークルが終わった神谷が早めにやってきたのだ。

カウンターの美寧の隣に腰を下ろした神谷が、自分も昼食をここで食べると言う。「それなら」とマスターが賄いとして同じものを作ってやろうという運びになった。

自分の分のエビピラフが来るのを待ちながら、神谷は美寧にここに来るまでの話をしてくれた。
彼の所属するボランティアサークルで、今日は大学周辺の清掃活動をしてきたという。

ひとしきりボランティア活動の話をした後、ふと神谷が美寧に訊いた。

『美寧ちゃんは学校で何か部活を?』

『部活?いえ、特には………』

通っていた女子高でも特に部活には入っていなかった。その時のことを訊いているのだと思った。

が———

『高校は近いの?平日も僕が来る時間にはもう来てるもんね』

『え………』

『高校は試験がいっぱいあるから大変だよね。僕は高校の時はバイトさせてもらえなかったんだよな』

だからここでのバイトが初めてなのだと神谷は言う。目を丸くして絶句している美寧に気付かず、厨房から漂ってくる匂いに『いっぱい動いたから腹減った』とため息をつく。

『あの、神谷さん、』

『ん?ああ、僕に構わず先に食べてね』

にっこりと笑った神谷に、美寧は開きかけていた口を閉じ、手に持っているスプーンでピラフを掬った。

『おい、神谷』

マスターがやってきた。手に持っている皿にはピラフがこんもりと盛られている。美寧の三倍はありそうだ。
目の前に置かれたエビピラフに神谷が目を輝かせた。

『わっ、すっげー美味そうですね!いただきます!』

マスターは、美寧の方にチラリと視線を遣ってから「くくっ」と笑いをかみ殺し、神谷に向かって言った。

『神谷。お前勘違いしてるぞ』

ピラフにスプーンを差し入れたところで名前を呼ばれ顔を上げた神谷に、マスターは口角を軽く上げて言った。

『美寧は二十一だ。高校生じゃない』

カシャン———スプーンが皿に落ちる音がした。


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