耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
(そういえば、れいちゃんが寝てるところって初めて見たかも……)

いつも怜は美寧よりあとに寝ているのに、起きるのは美寧より早い。
しかも美寧みたいにうたた寝をすることもないから、これまで彼の寝顔を見たことがなかった。

閉じられた切れ長の瞳。そのふちを飾るまつ毛は驚くほど長い。
すっと通った高い鼻。男性がみんなそうなのかは分からないけれど、怜の肌は間近で見てもきめが細かくスベスベとしている。
ぴったりと閉じられた薄い唇の感触は、もう触れなくても思い出せてしまう。

容姿端麗な怜の眠る姿は、どこか無防備で、いつもよりも少しだけ幼く見えた。

(れいちゃん、かわいい……)

くすっとこぼれそうになる笑みを、慌てて飲み込んだ。

(杏ちゃんが言ってたのって、このことなのかな……)

杏奈が言っていた。『可愛い』と『愛しい』は似ているのだと。

(れいちゃん、大好き……) 

心の中だけでそう唱えると、硬い胸にそっと頬をすり寄せる。
目覚めた瞬間から感じていたほのかな香りがぐっと濃くなる。その香りを吸い込むと、安心すると同時に、なぜかきゅっと胸が締めつけられた。

甘いような切ないような
嬉しいような泣きたくなるような

言葉にできない不思議な感覚———

怜のそばにいると安心するのに、時々そんな感情で胸が詰まる。
二十一年間生きてきて初めて感じる感覚。


怜が起きる気配はない。
胸につけた耳に、トクントクンと規則正しい音。じわじわと美寧の心の中に沁み込んでくる。

「だいすき……」

胸におさまりきれない想いが、音になって口からこぼれ落ちる。
美寧は、顔を上げてすぐのところにある怜の首元にそっとくちづけた。

一瞬だけ触れただけの唇に、怜の温もりが移る。
けれどすぐにそれは消えてしまう。

なぜかそれが淋しくて、美寧はもう一度同じ場所に唇を寄せてみる。
最初は軽く表面だけ。段々強めに押し付ける。心臓がドキドキとうるさい。
怜が起きる気配はない。

美寧は思い切って怜の首を軽く吸ってみた。

(こんな感じだったよね……?)

怜がしていたことを思い出しながらやってみる。唇を離してからそこを見てみるけれど、何もない。
怜がそうした後はいつも、赤く小さな印がつくのに———

(やっぱり上手く出来ない……)

思わず「むずかしい……」と呟くと、頭の上からくすくすと笑う声が聞こえてきた。

「っ!!れいちゃんっ!」

「………ばれましたか」

いたずらな笑みを浮かべた怜が、「おはよう」と言って美寧の額にキスを落とす。唇を離しながら再び忍び笑いを漏らす怜に、美寧の頬にパッと朱が差す。

「お、起きてたの………?」

返事の代わりに「ふふっ」と笑う声が返ってきて、今度は耳まで真っ赤になった。
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