耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
その場には美寧と颯介の二人だけ。
日が暮れて真っ暗なせいなのか、建物の裏手のせいなのか、それとも講義がすべて終わった後のせいなのか。はたしてその全部のせいかもしれない。他に通りかかる人はいないのは。
けれど美寧はそんなことすら気付いていない。自分が手に持った傘を差さずにいることも。颯介とぶつかりそうになってからずっと、彼が差しかけてくれている傘の中にいることですら。
ただ、顔色も声も失くして、立ち竦んでいる。
「美寧ちゃん———僕、大学で偶然君と会った後、ずっと君のことが忘れられなかった。何度も後悔したんだ、どうして連絡先を聞いておかなかったのかって………」
構内の電灯に照らされた颯介のジャケットの、肩の色が変わっている。
美寧に傘を差しかけているので、自分は傘に入りきれていない。
「あの時はまだ君が“許嫁”だなんて知らなかったから。本当に偶然だったんだ、ここで出逢ったのは———」
颯介は濡れていることなどまったく気付いていないのか、頬を上気させ、まっすぐに美寧を見つめてくる。
その瞳にこもる激しい熱に、美寧は我知らず後ずさる。
「それなのに僕は君と出逢った。きっとそうなる運命だったんだ―――僕たちは“許婚”なんだから」
じりじりと後ずさる美寧。美寧が下がった分だけ、彼女を濡らすまいと傘を差し出す颯介が前に出る。
「だからさ、……もう先生のことは忘れなよ。僕と先に出逢ってたらきっと君は、」
「ちがうっ!」
急に声を張り上げた美寧に、颯介が驚いた顔をした。
「美寧ちゃ、」
傘を持つ手とは逆側の手を美寧の方に伸ばした颯介。美寧はそれから逃れるように、今度は大きく後ずさる。と同時に声を上げた。
「そんなことない!いつどこで出逢っても、私は絶対れいちゃんのことを好きになってた!順番なんて関係ない!」
日が暮れて真っ暗なせいなのか、建物の裏手のせいなのか、それとも講義がすべて終わった後のせいなのか。はたしてその全部のせいかもしれない。他に通りかかる人はいないのは。
けれど美寧はそんなことすら気付いていない。自分が手に持った傘を差さずにいることも。颯介とぶつかりそうになってからずっと、彼が差しかけてくれている傘の中にいることですら。
ただ、顔色も声も失くして、立ち竦んでいる。
「美寧ちゃん———僕、大学で偶然君と会った後、ずっと君のことが忘れられなかった。何度も後悔したんだ、どうして連絡先を聞いておかなかったのかって………」
構内の電灯に照らされた颯介のジャケットの、肩の色が変わっている。
美寧に傘を差しかけているので、自分は傘に入りきれていない。
「あの時はまだ君が“許嫁”だなんて知らなかったから。本当に偶然だったんだ、ここで出逢ったのは———」
颯介は濡れていることなどまったく気付いていないのか、頬を上気させ、まっすぐに美寧を見つめてくる。
その瞳にこもる激しい熱に、美寧は我知らず後ずさる。
「それなのに僕は君と出逢った。きっとそうなる運命だったんだ―――僕たちは“許婚”なんだから」
じりじりと後ずさる美寧。美寧が下がった分だけ、彼女を濡らすまいと傘を差し出す颯介が前に出る。
「だからさ、……もう先生のことは忘れなよ。僕と先に出逢ってたらきっと君は、」
「ちがうっ!」
急に声を張り上げた美寧に、颯介が驚いた顔をした。
「美寧ちゃ、」
傘を持つ手とは逆側の手を美寧の方に伸ばした颯介。美寧はそれから逃れるように、今度は大きく後ずさる。と同時に声を上げた。
「そんなことない!いつどこで出逢っても、私は絶対れいちゃんのことを好きになってた!順番なんて関係ない!」