耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
[2]


急いで鍵を開け扉を引く。玄関引き戸が、いつもと変わらない年季の入った音を立てる。

家の中はシンと静まり、物音ひとつない。三和土(たたき)の向こう側から、飛び出してくる人はない。

家の奥はどこまでも暗い。

それでも家の中をちゃんと確かめなければいけない。もしかしたら、具合でも悪くなって部屋で寝ているのかもしれない。
そう思って、怜が靴を脱ごうとした時、後ろから声が聞こえた。

「怜君?」

振り向くと花江が立っていた。玄関前のアプローチをゆっくりとこちらに向かってくる。

「おかえり怜君。美寧ちゃんは?一緒やないん?夕方回覧板を持って来た時お留守やったから、また二人一緒に仲良うお出掛けやと思うとったんやけど」

キョロキョロとあたりを見回した花江は、首を傾げながら言う。

「そうそう、そん時に預かりもんをしたんよ。はい、これ」

花江が差し出したのは買い物袋。それには確かに見覚えがあった。美寧の物だ。

「『藤波さんに渡してください』て言われてな。えらい美男子やと思うたら、美寧ちゃんのお兄さんやて」

買い物袋と回覧板を怜に渡した花江は、「ほな、美寧ちゃんによろしうね」と言って帰って行った。

渡された袋の中身を見る。大小の缶詰が二つとカレールー。そして手書きのメモが入っていた。

【サバ缶カレーの作り方】
クセのない整った美寧の筆跡()で、材料や作り方が書かれている。
怜はすぐに彼女がそれを作ろうと思ったのだと知る。

買い物をした後の美寧にいったい何が。
彼女はいつ大学に来たのだろう。
彼女の買い物袋を聡臣が持って来たということは、美寧は自分の家に帰ったのかもしれない。
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