耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
《連絡を頂いていたのに、なかなか折り返せずすみません。仕事先だったもので》

電話をかけて来たのは聡臣だった。怜は彼にも連絡を入れていたのだ。

兄と一緒にいると分かれば、とりあえずは安心だ。そう思って掛けたが、電話を取ったのは秘書で、彼は今取引先の相手との会議中だという。
電話に出た秘書に美寧のことを訊ねてみたが、自分は何も聞いていないと言った。ひとまず時間が空き次第至急連絡が欲しいという伝言だけを頼んでおいたのだ。

《それで、なにか?美寧のことでなにかありましたか?》

そう訊いた聡臣の声には、何の含みもない。
美寧がまだ帰っていないこと伝えると、案の定聡臣は明らかに驚いた声を上げた。

《夕方僕と会うには会ったんです。たまたま変質者に襲われかけたところを通りかかって、》

「えっ!」

思わず声を上げる。そんなことがあったとは知らなかった。
焦りが滲んだ怜の声に、すぐさま聡臣が答えた。

《大丈夫です。大事には至りませんでしたし、捕まえた男は警察に引き渡しました。もちろん、今後美寧に接近させるようなぬるい対処はしていません》

最後の一言は急に温度が下がり、耳にひやりと聞こえた。

《それから僕の車で少し美寧と話をしたんです……が、途中で出ていかれてしまって………美寧が忘れて行った買い物袋をご近所の方にお預けしたのですが……》

それは受け取ったことを伝え、その近所の人曰く、美寧はずっと家に帰って来ていないと説明する。

《分かりました……ひとまず僕も急いで自宅に帰ってみます。もしかしたら美寧戻ってきているかもしれない》

お願いします、と言った怜に対して、一瞬間が空いてから、聡臣は《分かりました。また連絡します》と言い、通話を切った。


マスターから借りた傘を差し、公園中を歩き回ったが、美寧の気配はない。真っ暗な空からは、冷たい雨がひっきりなしに降っている。

こんな寒い夜に、いったい彼女はどこにいるのだろう。
温かい場所にいるだろうか。怖い思いはしていないだろうか。

心配と不安がひたひたと怜の心を侵食していく。まるで重たいぬかるみに足を取られ、底なし沼に引きずられるように、その場に立ちすくみそうになる。

けれど、今は何としても動くしかない。
美寧の無事が分かるまでは、このぬかるみに身を沈めることは出来ない。

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