耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「っ、」

ひゅっと息をのんだ美寧。そんな妹の方をまっすぐ見つめ、聡臣(あきおみ)は続けた。

「『娘を返せっ!』———祖父さんは、父さんに向かってそう言ったんだ」

美寧は一層大きく目を見開いた。
兄の隣で父が驚きを顔に浮かべ呟いた。

「聡臣……おまえ、覚えて………」

「ああ。忘れられるわけないよ、九歳だったんだ。ちゃんと母さんのことも覚えてる」

「そうか………」

「それにあんなに怒った祖父(じい)さんを見るのも初めてだった。その上、あんなひどい言葉を父さんに投げつけるなんて………」

そう言ったきり、聡臣も口をつぐむ。兄と父の二人が共有するその記憶は、きっと口に出すのもつらいものなのだ。

「……じゃあ、おじいさまは……お母さまが亡くなってしまったことでお父さまのことをお嫌いに………」

美寧がそう言うと、聡臣が眉をひそめ言った。

「『嫌い』というよりも『憎んでいた』と言った方がいい」

「憎んで……そんな………」

ショックで青ざめる美寧。
まさか自分が大好きな祖父が、父のことをそんな風に思っていたとは、すぐには信じがたい。

「おじいさまはおまえの前ではそんなそぶりを出さなかったが、僕は何度か見たんだよ」

「何を……」

「おまえに会いにこの家に来た父さんを、祖父さんが追い返すところを」

「っ、……うそ………」
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