耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「そんな母は、不在がちの父に代わりにしっかりと家を守っていましたね。俺の学校のこと、町内のこと、祖父母のことも。明るくて優しい人でしたが、怒ると怖いところもありました」

「そうなの………?」

「ええ。好き嫌いをして怒られたことも、いたずらをして怒られたこともあります」

「えっ、れいちゃんが……!?」

「はい……小学校の低学年の頃ですが。———母は、父が留守がちな分、自分がしっかり息子(おれ)を育てないと、と思っていたのでしょうね」

「そっかぁ………」

「この家で、家族三人で過ごす時間は、とても楽しく幸せでした」

美寧は写真で見た怜の両親の姿を思い浮かべる。二人ともとても優しそうな雰囲気だった。

こんなふうに、こどもの頃の怜の話を詳しく聞くのは初めて。
これまでも少しは聞いたことがあったけれど、それはあくまで“表面的なこと”だけ。こんなに詳しく話してくれたことはない。

怜が自分に『聞いて欲しい』と言っていたのは、“家族のはなし”だったのかもしれない。

(だけど、突然どうして———?)

なんとなく釈然としなくて、美寧がそんなふうに思った時、低い声が静かに告げた。

「ですが、俺の大切な人たちは皆———ここからいなくなりました」

美寧は瞳を大きく見開いた。息を吸いこんだ(のど)が、ひゅっと音を立てる。
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