耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「正解でした。自分ひとりの暮しはとても快適で、何ひとつ不満も不便もありませんでしたから」

「で、…でも……涼香先生や、ナギさんが………」

絞りだすようにそう言うと、怜は「ああ」と思い出したように言う。

「ナギやユズキは気の置けない友人ですが、彼らは"ここに留まる"ことはありません。自分たちの大事な人と過ごす中で、時々ここに寄る。決してここに留まることはない。いわば、『通りすがり』です」

「とおり…すがり………」

「はい。ですが、『通りすがり』だとしても、彼らが俺のことを気にかけてくれているのは分かっていましたし、俺も彼らを貴重な友人だと思っています」

いつもと変わらない表情の怜とは逆に、美寧は唇を噛んで痛みに耐えるように顔を歪ませる。

怜は、多感な時期に次々に肉親を亡くしたことで、人とのつながりをそんな風に考えるようになってしまったのか。
でも、そんなふうに考えてしまうほど、怜はつらい思いをしたのだ。

それなのに、今。美寧の目の前で、“いつもと変わらない”涼しげな顔をして、“なんでもないこと”のように坦々と話す怜。
美寧は、それがよけいにつらかった。

締めつけるように痛む胸を押さえ顔を歪ませる美寧に、怜は少しも表情を変えることなく静かに言った。

「ですから、あなたのことも最初は『通りすがり』だと思っていました。元気になったら自分の居場所に帰るだろう、と」

「っ!」

「そのうち、気付いたらいなくなっているだろう、迷い猫に軒を貸している———と。それくらいのつもりでした。だから何も訊かずここに置いた」

「う、うそ………」

「嘘じゃありません」
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