耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「『大事なものを作らないこと』は、俺にとって自分を守る壁のようなものでした。でもそれは、『失うつらさを二度と味わいたくない』という俺の弱さだ」

怜の腕の中で、美寧は首をふる。

「だけど、あなたはそんな俺の作った壁を、なんなく越えてきた」

怜の手が、ふわりと美寧の髪をすべる。
ゆっくり、やわらかく、ていねいに。
まるで頭から毛先まで、髪の毛ひとつひとつ、すべてが大事だというように。

「いや、ちがうな。壁なんて最初から無意味だったんだ。猫みたいにしなやかに、あなたはあっという間に俺の懐に入ってきた。そして、気付いたときにはここ(・・)に納まっていた」

怜の腕がゆるく締まる。『ここ』が、どこかを教えるように。

「突き放すのなら、もっと早くにしておけば良かったんだ。だけど俺には出来なかった。あなたを冷たく突き放すことも、ここから追い出すことも、———あなたに惹かれる自分を止めることも」

怜は悩ましげに溜め息をついて言う。

「『いなくなっていてもいい』そう思いながら家に帰るたびに、あなたが笑顔で出迎えてくれる。それがどんなに俺の胸を温めているか……どんなに俺がそれを喜んでいたか………あなたは知らないだろう?
一人でいるのが当たり前だったこの家が、あなたが来てから急に明るく温かい場所になった。『帰りたい』と思える場所になった。だから忘れていたんだ……いや、忘れたふりをした。俺は自分が怖れていることを———だけど、思い出した。ゆうべ誰もいないこの家に帰った時に」

美寧はハッとして、怜を見上げた。

未だ乾ききらない瞳で自分のことを見上げてくる美寧に、怜は困ったように眉を下げ微笑むと、美寧の頬をそっと指で拭う。そして言った。

「ああ、やっぱり。———―やっぱり、『俺の大切な人は、ここからいなくなってしまう』、と」
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