耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「あなたは謝らなくていい———」

さっきと同じ台詞に、美寧は大きく(かぶり)をふる。

『そんなわけない!』———そう言いたいのに、喉がひりついて声が出せない。美寧は怜の腕の中で何度も頭をふり続ける。
すると、頭の上から怒ったような声が聞こえた。

「そんなふうに、あなたを苦しめるためにした“約束”じゃない!」

「っ、」

「謝らなければならないのは俺の方だと言ったでしょう?あなたがつらい思いをしている時にそばにいられなかった……立て続けに怖い思いをして、ひどくつらかったでしょうに………」

『立て続けに怖い思いを』———その言葉に美寧はハッとした。

「な、なんで……そのこと………」

怜が知っているのだろう。自分がそれを口に出すのは今が初めてなのに———。
そう疑問に思うのと同時に美寧の体が小刻みに震える。今になってあの時のことが鮮明に思い出されたのだ。

これまでそれを無意識に思い出さなかったのは、自己防衛の一種なのかもしれない。この二十四時間の間に、あまりにも一気に色々なことが美寧に起こり過ぎた。

そんな美寧の体を怜は一度ぎゅっと強く抱きしめると、なぜかその腕を解いた。

背中に回る腕が無くなり、すぅっと冷たい空気が胸の中まで染みてくる。
震えの治まらない体を自分で抱くようにして二の腕を抱えて俯いていると、突然怜の手が目の前に差し出された。

「手を出して」

「え、」

差し出された怜の手は軽く握られている。
握られた手の甲をじっと見つめていると、「ほら、」と促される。顔を上げた美寧に、怜が黙って頷いた。
美寧はおずおずと怜の手の下に、自分の手のひらを差し出した。

怜がゆっくりと手を開く。
シャラリ———細い鎖の音がした。

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