耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
***


コンコン———
ノックしたドアの向こうから「はい」と返事が返ってきた。美寧はレバー式のノブを押して少しだけドアを開け、そこから顔を覗かせた。

「れいちゃん?コーヒー淹れたから持って来たんだけど……」

「ありがとうございます。ちょっと手が離せないので持って来てもらっていいですか?」

振り向きながらそう言った怜は、デスクに向かって何やら分厚い本を捲りながら、片手にマウスを握っている。
美寧は頷くと、「お邪魔します」と言って部屋の中に足を踏み入れた。


この家で暮らし始めて、かれこれ四か月。
その間に怜の自室に足を踏み入れたことは、片手で十分収まるほどしかない。
今みたいに怜が部屋に籠って仕事をしている時にコーヒーを持ってくることはあるけれど、大抵は怜がドアのところまで受け取りに来るか、『リビングで一緒に飲みましょう』と部屋から出てくることがほとんどだ。

(邪魔しちゃったかなぁ……)

タイミングが悪かったのでは、と心配になりながら、美寧は怜のところまでこぼさないよう気を付けてコーヒーを運んだ。


怜の部屋は、縁側からT字型に伸びた廊下を奥まで進んだところ。縁側から一番遠い家の奥側にある。

ちなみに美寧が自室にしている仏間は、南向きの縁側のすぐ向かい。怜の部屋との間にはもう一部屋和室があるが、そこはウォークインクローゼットのような使われ方をしていて、服や荷物が置かれていた。


「そこに置いて貰ってもいいですか?」

「ここ?」

「はい」

怜に言われたとおりデスクの端にコーヒーカップを置く。デスクの上にはラップトップのパソコン以外の場所に所狭しと本が積み上げられていて、言われなくてもそこに置くのだとすぐに分かった。

こぼすことなくコーヒーを置くことの出来た美寧は、ホッと息をついた。余裕が出来たせいか、ついついあちこち見てしまう。怜の部屋が物珍しいのだ。
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