耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「そんなに寂しそうにしないでください。今日(・・)、俺が食べたかったのは、“あなたと一緒に作ったおでん”なんですから———」

せつなさで萎んでいた美寧の心が、ほわっと膨らむ。すぐ隣の体にぎゅっと抱きつきたい衝動に駆られて手を持ち上げたけれど、すんでのところで思いとどまった。水でびしょびしょの上に玉子の殻があちこちについていたからだ。

残念そうに眉を下げた美寧を見て、「くくっ」と忍び笑いをもらした怜が、美寧の唇をすばやくさらった。

リップ音を立てて去って行く唇に、美寧は「もうっ」と頬を膨らませる。
怜ばかり好きな時にキスが出来るなんてちょっとずるい。

美寧からキスをしたくても、精いっぱいのつま先立ちでギリギリ届くか届かないか。
さらに今は抱き着くことすら出来ないのだ。

上目遣いにじっとりと見上げていると、頬をゆるませた怜がまた「くくくっ」と笑い、もう一度ゆっくりと美寧に顔を近付けた。

けれどそれは、美寧の顔の少し手前で止まる。

「あなたのお好きなように———」

『どうぞ』と言わんばかりの顔で、瞳を閉じる。美寧の頬にサッと朱が差した。

伏せられた瞳を縁取る濃く長いまつげが、怜の頬に影を落としている。スッと通った鼻の下にある、薄い唇に美寧は視線を移した。

思い切ってそこに唇を重ねる。思った通り、柔らかくて温かい。
少しの間じっと押しつけていた唇を、美寧はゆっくりと離した。

「お……、おでんの続き……しよ……?」

熱くなった頬を隠すように、さっと俯いて、残りの玉子を手に取る。隣からは「そうですね」と楽しそうな声が降ってきた。

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