耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
怜の誕生日の今日は、水曜日。ラプワールは店休日で美寧はお休み。
一方の怜も、大学が冬休みに入った為講義がなく、今日は丸一日休みを取っている。
研究室はD1の竹下に任せててきた。昨日のクリスマスイブに休みをもらった竹下はきっと年下の恋人と幸せな朝を迎えただろう。

そうして、そろって休みとなった今日。
二人はゆっくりと朝食を取ったあと、“怜の誕生日会”の準備を始めた。

システムキッチンの前、ちょうど美寧の目線と同じ高さのところには、小窓がある。そこから射し込む陽が柔らかい。

今日この日に、一日中怜と一緒に過ごせることが、美寧は嬉しくてたまらなかった。目が覚めた時からずっと、目に映るものすべてがキラキラと輝いて、薄く柔らかなベールに包まれたようだ。

お昼前のキッチンには、おでんの出汁の香りと同時に、甘い香りが充満していた。

甘い香りはオーブンから。
オーブンの中では、スポンジが焼かれている最中。怜に教わりながら、美寧が一生懸命ミキサーで玉子を泡立てた生地だ。
スポンジが焼き上がったらしばらく置いて冷ましてから、昼過ぎからはデコレーションにとりかかることになっている。

けれどその前に、二人は出かける予定にしていた。今日中にすべき、大事な用事があるのだ。

怜の誕生日に一緒にケーキを作りたい、というのは美寧の希望。
どうしても“今日”、ケーキを作りたくて、昨日(イブ)のケーキの誘惑には全力であらがった。

『クリスマスイブにも小さなケーキを買いましょうか』という怜の申し出には、絶対に首を縦に振らなかったし、マスターが賄いにつけてくれようとしたショートケーキも泣く泣く断った。

いくらスイーツが好きだとはいえ、二日も連続でケーキを食べるにはお腹に不安がある。
美寧にとっては、あくまで“今日”がメイン。昨日のクリスマスイブは念頭になかった。

それなのに———


「お昼ご飯はどうしましょうか……なにか食べたいものはありますか?」

そう訊いてきた怜に、「う~ん、軽いものかなぁ………」と悩みながら答える。

「昨日はずいぶんたくさん食べましたからね」

「………もうっ、お兄さまったら……あんな時間にあんなにたくさん持ってくるんだもん」

昨夜のことを思い出した美寧が、頬を膨らませる。
実は、クリスマスイブの昨日、兄聡臣がやってきた。夕飯の準備がちょうど整ったところだった。

< 357 / 427 >

この作品をシェア

pagetop