耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
繋がれたまま持ち上げられた手。キンと冷えた空気で頬は痛いくらいなのに、繋がれた場所は温かい。
美寧と怜はたった今、婚姻届けを提出してきたのだ。
昨日兄が怜に『父からのプレゼントだ』と言って渡した封筒の中には、父のサインの入った婚姻届けと、美寧の戸籍謄本が入っていた。
父のサインの隣には、なぜか涼香のサインも入っていて、いつのまに、と美寧は不思議だった。
「素敵なクリスマスプレゼントをありがとう、れいちゃん」
美寧が笑顔で怜を見上げる。
プロポーズのあと、怜が美寧にはめてくれたのは、一周すべてにダイヤモンドが埋め込まれた指輪———エタニティリングだ。
光りのプリズムを閉じ込めたような輝きに、美寧はうっとりと瞳を細める。けれど、突然「あっ!」と言って怜を振り仰いだ。
「でも、お仕事中は外さないと……」
「この指輪でもダメですか……?」
怜が美寧に贈ったのは、エタニティリングの中でもシンプルなデザインのもの。大きなダイヤモンドをたて爪で支えるよくあるエンゲージリングよりも、ずっと日常使いしやすい。
「ダメ、じゃないけど……でも、傷になったり壊しちゃったりしたらいやだし……」
「このデザインは他のものよりも頑丈なので大丈夫です」
指輪を一周するダイヤモンドの上下も地金で縁取られているから引っ掛かりも少なく、他のデザインのものよりも丈夫。シンプルながら洗練されたデザインで、美寧の細い指にもしっくりと馴染んでいる。
「でも、洗い物の時に落として失くしちゃったら、」
「もし失くしたら、また新しいものを買いましょう」
「ええっ!そんなのやだよ……私はこれがいいの。絶対失くしたくない」
「ミネ……」
「失くさないように気を付けるけど……でも、ラプワールは食べ物のお店だし、マスターも指輪はしてないし……」
怜は美寧が言うことも一理あると思う。確かに衛生面からいって、指輪はNGかもしれない。
「それじゃあ、仕方ありませんね……」
残念そうに頷いた怜に、美寧は少しホッとしながらも、なんだか申し訳なくなってしまう。
どうして怜はそんなに頑なに『指輪を着けたまま』にこだわるのだろう。
そう思いながらじっと見つめていると、怜が美寧からふっと視線を外した。