耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー

「お客様の場合、お肌のきめも細かいですし透明感も十分ですので、塗り重ねるというよりも基礎化粧でしっかり整えてあげて———」

(近くで見てもすごくキレイ……)

メイクをレクチャーされながら、すぐ目の前に立つその人に美寧は心の中で感嘆の声を上げる。

真剣な瞳を覆う睫毛は、近くで見ると目尻の毛先だけがかすかに赤い。

(すっごくおしゃれ……)

さっきから何度も同じことを思ってしまう。それくらい、彼女は都会の女性として洗練されていた。

コスメカウンターでメイクの手ほどきをしてくれる人をBA(ビューティアドバイザー)というらしい。涼香に教えて貰って初めて知った。
美寧は、そんなことも知らない自分はやっぱり世間知らずなのだと、改めて思ってしまう。


「お客様の肌のお色味ですと、リップはこちらのピーチピンクが良くお似合いかと」

そう言って唇の上にリップを乗せていく。神原が手に持った透明の容器の中には、鮮やかなピンク色の中にキラキラとした細かい粒子が混ざっている。

「いかがでしょうか」

カウンターの上にある鏡が、美寧の目の前に置かれた。そこに映っていたものに、美寧は大きく目を見開いた。

「すごくいいじゃない!美寧ちゃんの可愛いらしさが引き立ってる上に、ぐっと大人っぽくなったわ」

目を輝かせた涼香が、両手で小さな拍手を送っている。

「これが私……?」

鏡の中に映った自分。まるで自分じゃないみたいだ。

「メイク自体にまだ慣れていらっしゃらないということでしたので、軽く眉を整えさせていただいて、目元は少しピンクの入ったブラウンのシャドーでふんわりと軽く。リップはチップ式になっておりますので、軽く乗せてから指でポンポンと馴染ませていくと、ナチュラルながらも血色良く華やかな仕上がりになると思います」

「なるほど……」

「いいじゃない、美寧ちゃん!これでフジ君もイチコロね!」

ポンと美寧の肩を軽くはたきながら涼香が言う。

「イチコロ……」

鏡の中の自分に釘付けになりながら、思わず考え込んでしまう。
そんな美寧に、カウンター越しの神原もにっこりと微笑んだ。

「もともとお可愛らしいうえに、こんなに魅力的に変身された女の子を放っておく男性がいるとは思えません!」

二人の女性は美寧の頭越しに「うんうん」と頷き合っている。
美寧は、照れくさくてはにかみながら「ありがとうございます」とお礼を言った。

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