耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「それで?そのセリフのどこに引っかかったの?藤波さんの言う通り、恋人と別れることなんてよくあることだよね?」
航の問いかけに、涼香は一拍間を置いてから口を開いた。
「そう……かもしれないけど、でも、最初から『別れよう』と思って付き合う人はいないでしょ?だけどフジ君は、最初から“別れ”を前提に付き合ってるのかもしれないって、そう感じて……」
「付き合ってる人といずれ別れるって、覚悟してるってこと?」
「“覚悟”、というよりも……“諦め”、みたいな………」
「最初から諦めてるってこと?」
「うん……上手く言えないのだけど、今までどの恋人にも、フジ君が熱のこもった目をしているのを見たことがなかったの。ううん、恋人にだけじゃなくて、フジ君が他の人に執着するところを見たことない。言い方は悪いけど、ある意味『来るもの拒まず、去るもの追わず』っていう感じ」
「執着しない、か……」
「彼が言った『死に別れたわけじゃない』ってセリフ。それを聞いてハッとしたのよ……」
少し間を開けた涼香は、思い切って言った。
「フジ君、中学生の時に事故でご両親を亡くしてるの……それで、そこからは祖父母と一緒に暮らしていたらしいのだけど、大学進学前にお祖父さまを。そしてその言葉の前には、お祖母さままで………」
辛そうな表情を浮かべた涼香。膝の上に置いた手に、隣から大きな手が重ねられた。上からきゅっと握られて、その温もりに涼香の翳った表情が緩む。
「もしかして、フジ君が他人へ執着をしないのは、肉親との死別があるからかな、って……」
「なるほど……確かに。そういうの、心理学で習ったな」
「うん……でも、別にね、だからと言ってフジ君と友人であることを止めようとは思わなかったのよ?それはナギも同じ。彼も言ってたの。『だとしてもフジはフジだろ。俺たちがずっと友人でいればいい』って———」