耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
怜の後から入ってきた営業マン風の男性の接客には、神谷が行った。
美寧はマスターがコーヒーを落としている間に、さっき下げたばかりのカップやカトラリーを洗っておくことにする。

シンクは奥の調理場にもあるけれど、カップは他のものとぶつかって割れたりしないように、カウンターの内側にある小さなシンクで洗うことになっていた。

美寧が洗い物をしているちょうど前に怜が座っている。立っている美寧とスツールに腰かけている怜の目線はちょうど同じくらいだ。
カウンター越しに視線を感じるけれど、うっかり気を取られて手を滑らせてはいけない。マスターこだわりのコーヒーカップを割ってしまわないよう、美寧は全神経を手元に集めた。


「ミネ———」

食器を洗い終えて手を拭いていると、声を掛けられた。顔を上げると、カウンター越しに怜と目が合う。

「あと少しで上がりですよね?コーヒーを頂きながらゆっくりしていますので、今日は一緒に帰りましょう」

「いいの?」

「はい、もちろんです」

怜と一緒に帰れることが嬉しくて、美寧は「ありがとう」と笑顔になる。

するとコーヒーを落とし終わったマスターが、怜の前にコーヒーを置いてから美寧に言った。

「そうだな、それがいい。まだ明るいとはいえ、もう日暮れ間近だ。最近じゃ、商店街で不審なやつを見かけたって話もよく聞く。美寧もあまり一人でウロウロしないほうがいい」

「不審な人……」

マスターの話に、つい先日回ってきた回覧の中身を思い出した。同じように怜も「回覧板にも書いてありましたね」と言っている。

「気を付けることに越したことはない。特に美寧は、な」

マスターに念を押され、美寧はなんとなく頷く。裏の家の花江さんといいマスターといい、どうして皆美寧に「気をつけろ」と言ってくるのだろう。不審者のうろつきそうな夜は家から出ないし、あまり人気の少ない場所にも行かない。公園を通るもの、ラプワールへの通勤がほとんどなので、人通りの多い時間ばかりだ。


そんなことを話しているうちに、さっき入ってきた客からオーダーを貰った神谷がカウンター内へ戻ってきた。

「マスター。ブレンドホット一つとホットサンド一つ、です」

「了解。美寧、悪いが奥の冷蔵庫から材料を出しておいてくれるか?」

「はい、分かりました」

美寧は返事をすると、濡れた手を拭きカウンターの奥へ向かった。
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