耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
【カフェ ラプワール】のカウンターの内側は、奥に向かってL字型になっている。ちょうど角のところが調理場になっていて、客席から見えるのはそこまで。クランクを折れた奥は事務所兼在庫室のようになっているのだ。ちょうど店内の壁を挟んだ場所にあたる。

調理場の奥にある冷蔵庫を開けていると、神谷がやってきた。

「手伝うよ」

「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ?」

一人前のホットサンドの材料を出すのにそんなに手間はかからない。
そう言って断った美寧に、神谷は「具材とか場所とか、なるべく早く覚えたいから」と言う。

確かにその通りだ。
細々としたことで覚えておいた方がいいことはいくらでもある。
美寧が帰ってしまったらマスター一人で彼に教えることになるので、今のうちに少しでも教えられることは教えておいた方が良いだろう。

「そうですね……じゃあ、一緒に材料を出すのをお願いしますね」

少し考えてからそう言うと、神谷が「うん」と頷いた。

「えっと、冷蔵庫から卵一個と、スライスチーズとベーコンで……」

ドアを開けて美寧が卵を手に取ると、隣に並んだ神谷が「チーズとベーコンはこれ?」と訊いてくる。「はい」と答えてから、「あとはレタスです」と野菜室を開けた。

「BLTホットサンドかぁ」

神谷が感心したように上げた声に、美寧の口から「すごい!」という言葉がこぼれた。

マスターの作るホットサンドは、美寧も大好きなメニューの一つ。
一度フライパンで焼いたカリカリのベーコンと半熟でとろとろの卵がなんとも言えず美味しい。もう何度も賄いで作ってもらっている。

「なにがすごいの?」

「だって、神谷さん。材料見ただけでホットサンドの種類が分かるんですもの」

「えっと、普通じゃないかな?ベーコンとレタスとトマトだから、BLTでしょ?」

「確かにそうですけど……」

美寧は自分が初めてマスターのホットサンドの手伝いをした時のことを思い出す。
マスターに言われた通りに材料を出したけれど、それがどういうものになるのか見当もつかなかった。

それは自分が育った環境が特殊なせいだということは、美寧本人も分かっている。
出した食材を調理台に並べながら、美寧は自分の至らなさに胃の辺りが少しだけ萎むような気がした。
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