耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「それにしても驚いたな」

「え?」

脈略のない神谷の台詞に、美寧の目が丸くなる。
そんな美寧に、神谷は続けて言った。

「藤波先生ってここのお客さんだったんだね」

「あっ、はい。………えっと」

美寧は瞳を伏せ言葉を探す。
何をどうやってどこから説明したらいいのだろう。

美寧がその答えを探し当てる前に、カウンターの方からマスターの声が飛んできた。

「おーい、どっちか、お客様をご案内してくれ」

振り向いてカウンターの外を見ると、新しいお客様が来られたようだ。

「はい、今行き、」
「はい!すぐ行きます!」

美寧が行こうとしたところで、神谷がそう言いながら体の向きを変えた。
そして美寧の隣を通り抜けながら肩をポンと叩き、「君はそろそろ上がりの時間でしょ?」と言って店内に出て行った。

神谷の素早さに思わず呆気にとられ、パチパチと瞼を(しばた)かせながらその背中を見送っていると、視界の端、カウンターに座る怜がこちらを見ていることに気が付いた。

「あっ、」

怜を見て時計を見る。長い針はとっくに12を過ぎている。

「ごめんね、れいちゃん。お待たせしちゃって……」

怜のカップの中は既に空だ。あとは美寧の仕事上がりを待つだけなのだろう。

「美寧、もう上がって大丈夫だぞ」

ホットサンドを作るために調理場に向かうマスターもそう言ってくれたので、美寧は「はい。じゃあお先に失礼いたします。お疲れさまでした」とマスターに返す。

本当は神谷にも一言声をかけてから帰りたかったけれど、彼は接客に忙しそう。あまり怜を待たせたくなかった美寧は、マスターに「神谷さんにも『お先に失礼します』と伝えてください」と言い残し、怜に「帰る支度してくるね」と言ってカウンターの奥、L字型になった細い通路先にある事務所に戻っていった。


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