耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー

ラプワールの裏手にある事務所出入り口から美寧が出ると、表通りのところで待っている怜が目に入る。美寧は小走りに駆け寄った。

「れいちゃん!」

「お疲れさまでした」

「お待たせしちゃってごめんね」

「そんなに待ってなんていませんよ。さ、帰りましょう」

「うん」

怜が差し出した手に、美寧は自分の手を重ねる。美寧は彼の手が大好きだ。

繋いだ手から伝わる温もり。優しく包み込むように握ってくれる大きな手。ほっそりと長い指は触れてみると意外と節くれだっていて、自分の手とは違う感触に毎回胸がトクトクと波打つ。

祖父の皺が沢山入った分厚い手のひらとは違うけれど、優しく美寧を包むようなそんな愛情を感じるのは同じ。それが嬉しくて幸せで、ずっとこうして怜と手を繋いでいたくなる。

それなのになぜか、胸の奥が甘く疼く。
嬉しいのに泣きたくなる。幸せなのに哀しくなる。

いったいこの感情の正体はなんなのだろう———


手を繋ぎ、並んでゆっくりと家路を()く。
夕風に揺れる(すすき)。毎日少しずつ早くなる日暮れ。
西に傾いた太陽が長い影を作り、秋の虫が公園の木立の奥から聞こえてくる。

西日が当たってキラリと光る溜め池の水面(みなも)が眩しくて、美寧が思わず目を(すが)めた。

「ミネ———」

ふいに名前を呼ばれて顔を上げると、涼やかな瞳が見下ろしていた。

「なに?れいちゃん」

少しだけ湿った瞳を誤魔化すように微笑んで見せると、怜は何か言いたそうに開きかけた口を閉じる。

「れいちゃん?」

見上げながら小首を(かし)げる美寧。
すると、怜がポツリと言った。

「……気を付けてくださいね」

「え、何を?……あっ、そっか。うん、分かった」

美寧は頷く。そして言う。

「ラプワールから帰る時は、寄り道せずにちゃんとまっすぐ帰るようにする。気を付けるよ。不審者、怖いもんね。」

神妙な顔でそう言った美寧に、怜が一瞬目を見張る。そして美寧に聞こえないように小さく息を吐き出すと、口を開いた。

「そうですね、十分気を付けてくださいね。不審者に()

「うん!」

笑顔で頷いた美寧に、怜は真横に伸びた眉を少しだけ下げ微苦笑を浮かべた。

< 87 / 427 >

この作品をシェア

pagetop