偽りの花婿は花嫁に真の愛を誓う
「よろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

彼女は私を鏡台の椅子に座らせ、テキパキと髪を結ってメイクを施していく。
オフィスビルに入っている美容室のスタッフは早朝から夜も比較的遅くまで、呼べばすぐに来てくれた。
私はなんだか悪くて呼びづらかったんだけど。

『そういうシステムだし、それだけ金を払ってるんだから問題ない』

なんて御津川氏に言われて、ちょっと大事なお出掛けのときだけ頼んでいる。

「これでよろしいでしょうか」

「はい、大丈夫です」

花井さんは着付けまでしてくれた。
私よりもふたつほど若い彼女だが、腕はしっかりしている。

「いつもながらご苦労様。
ありがとう」

今日の私は茶席にふさわしい、上品な若奥様に仕上がっていた。
お茶のお稽古に行くとだけ伝えたのに、さすがだ。
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