偽りの花婿は花嫁に真の愛を誓う
さすがに交代制だとは思うんだけど、……いつも同じ人がいるようにしか見えないんだよねー。
私の中でこのヒルズの謎のひとつでもある。

「いってらっしゃいませ」

タクシーに乗り込んだ私を、右手を胸に当ててお辞儀をして彼が見送ってくれる。

「やっぱり、慣れないな……」

ちらりと振り返ったら、彼はまだそこで微動だにせずにあたまを下げていた。
ちなみにあれは、見えなくなるまでやっているらしい。
セレブ奥様としてはそういうのは当然なんだろうけど、私としてはいつまでたっても慣れない。

ヒルズから街までタクシー移動だなんてメーターが怖すぎる! と、怖いもの見たさで目を向けたら、ご丁寧にもメーターは切ってあった。
セレブ配慮がよくなされている。

「では、一時間ほどでまた、お迎えにあがります」

「よろしくお願いします」

街でいったん、タクシーを降りた。
お稽古場はここから少し離れた閑静な住宅街だが、外でお昼を食べようと思ったから。
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