偽りの花婿は花嫁に真の愛を誓う
「そうだな。
とりあえず、俺と一緒に来い」

部屋を出て歩きだした彼を追う。
エレベーターに乗って彼が五十五階のボタンを押す。
ビルの案内ではそこは、会員制のバーだったはず。

「あの……」

真っ直ぐに前を見たまま彼はなにも言わない。
黙っている間にエレベーターは目的階に到着し、ドアが開いた。

「ようこそいらっしゃいました、御津川様。
お連れ様がお待ちです」

いかにも、なタキシードのスタッフが慇懃に彼へあたまを下げる。
会員制なのに止められることなく個室へ案内されたということはやはり、彼はそうなのだろう。

「上手くいったのか?」

ひとりで飲んでいた男が、右のレンズを掴むようにして眼鏡を上げた。

「だから、このとおり」

くいっ、と鈴木氏(仮)――もとい。
御津川氏が顎で私を指す。
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