オフィスラブはじまってました
 普通の家庭用カセットボンベで使えるシングルバーナーだったのだが。

 そもそも、その普通のカセットボンベがひなとのところにはなかった。

 いやまあ、それは引っ越したばかりだし、なくてもおかしくはないのだが。

 いまだにコンソメのひとつもなかったことに、柚月は驚いたようだった。

「醤油はあったじゃないですか~」
と苦笑いして、誤魔化すようにひなとが言うと、小鍋の中を見ていた柚月が目を上げ、訊いてくる。

「……もしや、胡椒(こしょう)もないとか」

 ひなとが答えないでいると、柚月は出て行き、その場で粗挽《あらび》ける黒胡椒を持ってきた。

 ミル付きのスーパーなどでも売っているやつだ。

「あ、それ、いいですよね。
 ……いや、焼けたアパートにはあったんですよ、同じのが」
とひなとは言い訳がましく言ってしまう。

 ほんとうに、あったんですよ……、
と思いながら、ひなとは小鍋から立ち昇る湯気の匂いを嗅いだ。

「あー、幸せの匂いですね~。
 でも、こんなところで火をつけていて、住民の皆さんから文句言われませんかね?」
と言ったが、鍋を見ながら柚月は言う。

「これなら、カセットコンロつけてるのと変わらないから、別に言われないだろ。
 煙も出ないし。

 っていうか、此処の住人、みんな変わってるから、そんな常識的な文句は言ってこないと思うぞ」
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