幸せになりたくて…… ~籠の中の鳥は自由を求めて羽ばたく~
一通りの家事をこなした後,いつもならあたしは自分のノートパソコンに向かって小説を執筆するのだけれど。今日はリビングのソファーに座り込み,大智からもらった名刺を見つめていた。
『オレのケータイ変わってねえから』
大智はそう言っていたけれど,名刺の裏面にはご丁寧にケータイの番号まで書いてある。あたしが万が一メモリーを消していた場合のことを考えたんだろうか?
「大智……」
彼はあたしのことをちゃんと覚えていてくれた。ずっと忘れないでいてくれたんだ。そしてまさに今,困っているあたしを救おうとしてくれている。
あたしは今夜,正樹さんが帰って来たらこの転職話をしようと決めていた。あの人が何と言おうと,もう心は決まっていることも。
……だって,あたしはまだ大智に惹かれているから。もう名ばかりの夫の言いなりになるのもバカバカしく思えてきたのだ。
これはあたしの人生なんだ。だったら,理不尽な要求に従順でいる必要なんてない。あたしにだって,物事を決める権利があるはずだから。