幸せになりたくて…… ~籠の中の鳥は自由を求めて羽ばたく~
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――夕方六時を少し過ぎた頃。正樹さん帰宅。
「ただいま」
「……おかえりなさい」
いつものように愛想なく,あたしを一瞥しただけで,正樹さんは着替えをしに寝室横のウォークインクローゼットへ消えた。
「――なんだ。今日はあの下らない小説は書いてないのか?」
着替えを終えてリビングに戻って来た彼は,ローテーブルの上にパソコンがないことに気づいたらしく,イヤミったらしくあたしにそう訊いてきた。
「はい。今日は他に考えることがあったので。……ゴハンできてますけど」
〝下らない〟というセリフにはカチンときたものの,もう腹を立てることもバカらしいので抗議するのはやめた。代わりに,思いっきり事務的な言い方で切り返す。
どうせあたしは〝家政婦代わり〟くらいにしか思われていないんだから,それを逆手に取ってやればいいのだ。
いつもやられっぱなしでいるほど,あたしは弱くないから。
「……そうか。じゃあ,メシにしてくれ」
「はい」
ぐうの音も出なくなった正樹さんに向かって,あたしは内心ガッツポーズをした。