幸せになりたくて…… ~籠の中の鳥は自由を求めて羽ばたく~
――夕食後。
キッチンで洗いものを終わらせたあたしは,リビングでタブレットをいじっていた正樹さんに転職話をぶつけてみた。
「正樹さん,大事なお話があるんですけど」
彼は「何だ?」とも何とも言わず,リビングに戻って立ったままでいるあたしに視線だけで応える。
あたしは構わずに話を続けた。
「あたし,転職しようと思ってるんです。知り合いが少し前に始めた会社があって,今日『手伝ってほしい』って誘われて。正社員待遇なんですけど」
彼が次に何を言うのかはもう予想がついている。
『そんなの認めない』
『許さない』
でも,あたしは引き下がるつもりはない。もう決めたから。
「正社員っていっても,月収制ってだけで。時間はフレックスだから早めに帰って来られるんです。家事をするにも差し支えありません」
タブレットから顔を上げた正樹さんの眉が,ピクリと動いた。
「あたし,やっぱりパートよりも会社勤めがしたいんです。『自分も社会の中の一員なんだ』って実感したいんです。福利厚生だって,正社員の方が絶対いいし。だから――」