魔法通りの魔法を使わない時計屋さん
「もう? 早いね」

 感心したように戻ってきた彼の前で、リリカはそばに置いておいた「こじ開け」を手にした。

「開けてみます」
「あぁ」

 ヘラの先を隙間に差し込んで押し上げると、パカっと今度は難なく裏蓋は外れた。
 中はとても綺麗だった。とても大切に扱われてきたのがピゲから見てもわかる。
 その裏蓋を裏返してみて、リリカは「あっ」と声を出した。

「じぃじ……」
「え?」
「じぃじの、ウェルガーのサインが」
「ということは、この時計を前に修理したのは君のおじいさんだったのか」
「……」

 リリカの様子がどこかおかしい。じぃじのサインを見て喜ぶどころか、先ほどから何かを必死に思い出そうとしているように見える。

「それは素敵な偶然だね」
「偶然……じゃ、ないかもしれません」
「うん?」

 リリカはその懐中時計をじっと見下ろしながら、震える声で言った。

「この時計に魔法をかけたの、私です」
「え?」
「え?」

 ピゲと彼の声がまたぴったりと重なった。
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