身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
彼の部屋はあまり飾り気がなく、落ち着いたカラーリングで、都会的でシンプルなテイストだった。家具やインテリアは必要最低限のものしか置いておらず、ぱっと目につくのはデスクとベッドくらいだ。

彼はそのデスクに向かってパソコンのキーボードを叩いている。

「お忙しそうですね」

「ああ。もう少しかかりそうだから、気にせず先に寝てくれ」

あっさり告げられて、私は拍子抜けしてしまう。

「紗衣?」

「……は、はい、わかりました」

途端、自分の思考回路が恥ずかしくなり、私は頬を赤くした。けれど結婚を前提に一緒に暮らし始めたのだから、少しくらい親密なふれあいもあると想像してしまっても責められないだろう。……誰に聞かれたわけでもないのに、心の中で言い訳をする。

もしかして私のこの思考回路は、未経験だからこそのものだろうか。普通のおとなは、もっと余裕があるのだろうか。

「お互い休日になるまでゆっくり話せそうもないが、この家の何を触っても何を使ってもいいし、冷蔵庫も遠慮せず開けて飲み食いしてくれ。今日からここが紗衣の家だからな」
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